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労働金庫のセーフティネット貸付制度の対象者とは

対象者は未組織勤労者で、(1)当金庫「生活相談専門担当者(現在8名)」の相談(相談カウンセリング)を受け、専担者が推薦する者、(2)健全な返済状況が認められるか、または具体的な返済計画が組めると、営業部店課長およびローンセンター所長が特に認めた者、(3)(過去に)弁護士・認定司法書士による負債整理手続を行っており、順調な返済状況が認められる者、のいずれかに該当する者を対象とする。なお、全国労働金庫協会は静岡労金の「リボン」の制度を全国に展開していくことを、「多重債務者問題対策会議第12回有識者会議」で報告している。

労金業界は2008年12月から「就職安定化資金融資」の提供をしている。世界同時金融危機から日本国内でも派遣切り、雇用止めによる住居喪失・離職者が大問題になり、国の緊急対策として補正予算が組まれた。その結果、連合の高木剛会長と舛添要一厚生労働大臣(いずれも当時)の間で合意され、融資制度が構築された。ハローワークと連携し、2009年8月末現在で約1万人、74億円の融資提供をしている。国民の生存権確保と6ヵ月間の就労支援のための住居・生活支援融資だが、この間に就労できためはごくわずかにすぎない。6ヵ月間の返済据置期間が切れた対象者は日々の生活費を得るため、生活保護の申請に行くしかない。当然、生活保護費を返済金として求めるわけにはいかない。

ただし、いかに国と提携した融資としても、管理・回収、不良債権処理は金融機関として行わなければならない。この矛盾は融資制度が発足する時点からわかっていたことである。ところで、日本金融通信社は2008年度の「ニッキン賞」に労働金庫協会と13の労働金庫を選定した。金融機関の社会貢献が顕著だったことを評価するものだといわれている。受賞理由は、①長年にわたる多重債務者の救済活動、②金銭消費者教育の実践、③就職安定化資金融資だ。いずれも金融界が果たすべき役割であると思う。これからも緊急事態があるだろう。そのときには、すべての金融機関に対応できるような仕組みが必要である。労働金庫だけでは窓口が少なすぎるといわざるをえない。

労働金庫の「お金を借りられなくなった人に対する顔のみえるセーフティネット貸付制度」

政府の多重債務者問題対策プログラムで、労金・信金・信組等金融機関に求められている「顔のみえるセーフティネット貸付制度」とは、現在ネガティブ情報登録中であっても、丁寧な事情聴取、解決方法の相談、事後のモニタリングを前提として返済能力が見込まれ、問題の解決に資する場合に限って、低利貸付を提供することである。ここでは、静岡県労働金庫が2009年度から取り扱うている、会員以外の一般勤労者対象「セーフティネット貸付リボン50」、会員対象貸付「役立ち宣言」「リボン3 ・リボン5(ネガ情報登録者)」を例に制度内容と取扱方法について紹介する。

①「セーフティネット貸付リボン50」創設の理由
改正貸金業法の完全施行に向け、政府多重債務問題対策プログラムや社会からの要請として「お金を借りられなくなった人に対する顔のみえるセーフティネット貸付」への期待感が強まっている。静岡県労働者福祉協議会は2007年10月、「クレ・サラの被害をなくす県民会議」名で、静岡県に対し、こうした制度の実現を含む対県要請を行っている。現在、静岡県と研究会を設け検討しているが、遅々として進んでいない。したがって、静岡県労働者福祉協議会・静岡県勤労者信用基金協会・静岡県労働金庫独自の判断で「静岡ろうきん版マイクロファイナンス」を制度化、2009年から取扱いを開始している。

②制度の趣旨・目的
多重債務者は負債整理(任意整理・法的整理等)による救済と引き換えに、個人信用情報にネガ情報が登録される。このため、通常、金融機関またはクレジット会社から新たな与信の途はほぼ閉ざされてしまう状況にある。本制度は「信用異常」となった勤労者に対し、安易な借金に依存しない生活への再生を前提に、必要な資金を融通するものである。資金使途は生活再生の健全性を求めるために子供の進学資金・学費・通勤用車両購入・修理費・医療費等を想定している。

③制度の骨子
連帯保証人については、配偶者またはその他親族1名(必ずしも信用力は問わない)。

協同組織金融機関はまずメンバーに責任を果たすべし!

戦後、マイクロファイナンスの分野は労働金庫・信用金庫・信用組合・農業協同組合が担ってきたと思うが、社会的の変化から効率化を求められ、本来、人と人の信頼関係によって行われた協同組織金融機関の信用事業は、個人信用情報の整備等により機械的となり、その隙間を消費者金融業界等に埋められてしまった感が強い。現在、消費者金融利用者は1,000万人を超える。2010年1月の完全失業者は323万人(失業率4.9%。季節調査値)と発表された(速報)。

消費者金融の利用者層は20代、30代で50%を超える。しかも失職者は今後、正規社員にも及ぶといわれている。貸金業法の完全施行に伴い、金利規制や総量規制が行われ、その隙間からはじき出される人たちをどうカバーしていくかが問われている。1,000万人もの利用者のなかには労働者、個人事業者、農業・漁業従事者も含まれている。

この状況にかんがみると、協同組織金融機関はまずメンバー(組合員)に対し、状況に応じて、多重債務問題解決プログラムに示されているように、「丁寧な事情聴取、解決方法の相談、事後のモニタリングを前提として返済能力が見込まれ、問題の解決に資する場合に限って低利の貸付制度」を用意し、その受け皿となることが求められている。労働金庫にしても法律の制約でメンバーシップ制をとっており、1,000万人の間接構成員を要しているが、雇用労働者数は5,565万人(2008年)である。労働金庫の会員を構成している労働組合の組織率も18.1%にすぎず、圧倒的多数の雇用労働者が労働金庫を認識していない。課題はみえている。

日本版グラミン銀行 マイクロファイナンスへの挑戦

ICA(国際協同組合連盟)は10年に一度、全世界に対しメッセージを出している。最近では2005年にマイクロファイナンスに関するメッセージを出しているが、その翌年、2006年度のノーベル平和賞がバングラディッシュのグラミン銀行と創始者ユヌス氏に贈られたことで注目されている。ところで、グラミン銀行の株式は、政府が60%、残り40%をメンバー(1人1株)が保有し、政府の手厚い保護を受けている特殊銀行と紹介されている。同行の特徴としては、融資の対象が貧しい人に限定されていることである。

さらに融資を受ける人は5人のグループを形成し、担保を必要としないかわりに、返済については連帯責任を負う。また、毎週集会が開かれ、それへの参加も義務づけられている。二宮金次郎の五条講制度と似ている。日本の特殊銀行は産業振興を中心としたもので、貧困者の自立を目的とした政府の手厚い保護を受けた銀行は存在していなかった。その意味では、政府が「日本版グラミン銀行」を構想することは評価できるものと考える。

協同組織金融機関とは異なるが、グラミン銀行の思想は次に紹介する近代日本の協同思想となんらかわりのないものと思う。日本は明治以降に、ドイツのライファイゼンの庶民銀行を倣って発案された佐久間貞一の国民貯蓄銀行(民間銀行)が設立されている。二宮尊徳の報徳思想に由来する農業協同組合のほか、大正時代には貧困労働者向けに、1921年に岡本利吉が有限責任信用組合労働金庫を設立、賀川豊彦の中ノ郷信用組合等がマイクロファイナンスを提供していた。

貸金業法への対応

総量規制は年収1/3条項に「不動産購入・自動車購入時の自動車担保・高額医療費等の貸付」を除外し、「小額の緊急医療費・不動産担保・配偶者と合わせた年収1/3以内等の貸付」を例外としている。一般給与生活者の世界では、総量規制を超えて15~20%の金利で貸し付けられれば、やがて多重債務への道を進む危険性が大きい。2009年末から数回、「貸金業制度に関するプロジェクトチーム」の傍聴をしたが、完全施行の先送りや貸金業法への疑義を論じている人たちは、除外・例外規定に話題が及ぶのを避けるために行動しているようにしか思えない。

多重債務問題から視点から考えれば、バブル崩壊後、1997年に北海道拓殖銀行や山一証券が経営破綻した年にイギリスの新聞が武富士を「世界最高峰の消費者金融」と報じた。恥ずかしいことである。金融は「経済の血液」といわれ、最も社会性を重視することを求められてきたからこそ、金融界は戦後保護されてきた。何度となく血液は汚れ、体調を崩す。そのたびに批判をされてきた。それでも体調がよくなると、また同じことを繰り返す。金融システムを消費者目線に変えていくことが重要だ。労働金庫は中央労福協方針のもと、クレジット・サラ金問題対策協議会関係の法曹界(弁護士・認定司法書士)と全国規模での連携を図ってきた。

全国の自治体とは1980年代前半から協調融資制度関係(一般勤労者向けで低利の生活融資制度)の創設を図っている。有識者会議の中間報告にあるように、金融庁は労働金庫を自治体の多重債務対策会議(協議会)にメンバーに加えるよう要請している。それぞれの労金も積極的にかかわり、創立以来かかわうてきた多重債務者救済のノウハウを提供し、貢献しなければならない。また後述するが、労金業界の「お金を借りられなくなった人への顔のみえるセーフティネット貸付制度」はまだ始まったばかりである。一般金融機関のなかには保証業務を消費者金融と提携し、カードローン等を取り扱っているところが多く存在する。

しかしながら、多重債務問題に対しては何もメッセージを出していない。特に、政府が求める「セーフティネット貸付の取組み」については、何も感じられない。最近、労働金庫には銀行のおまとめに失敗した相談者がよく相談に訪れる。金融機関が自行・自社の利益のみを優先し、多額・多重の相談者に問題解決のカウンセリングを行っているようにはとても感じられない。消費者金融会社はノンバンクであり、資金調達を銀行・保険会社等に依存しているところが多い。これからも多くの消費者金融会社が淘汰されていくと思うが、そのとき、銀行等は貸し手の責任を十分自覚し、消費者に過大な負担になることは避けるべきだと考える。

信用生協やNPOバンクとの連携

現在、信用生協は岩手県しか活動実績がない。かつて宮崎県や三重県にも存在し、活動していた時期がある。政府が「日本版グラミン銀行」のモデルと紹介しているが、数少ない成功事例として評価できる。最近では、グリーンコープ生協の生活再生事業が注目を浴びている。組合員の生活困窮のなかから生活再生の必要性を認識し、徹底した組合員討議を繰り返し、事業を出発させた。金銭教育事業・消費生活支援事業・生活再生相談事業(相談料:無料)・生活再生貸付事業と4つの事業を複合させ、しっかりとしたカウンセリングを施し、問題解決にあたり自立・自助の道を示している。現在の多重債務問題解決に対し最も優れた仕組みとなっており、労金業界としても見習わなければならないと感じている。

貸金業法では、多重債務の原因となった高金利・過剰貸付・取立規制・参入要件等が強化され、総量規制が導入される。1983年の貸金業規制法から比べれば抜本的な改正であり、(「規制」の2文字が消えたとはいえ)名実ともに貸金業規制法だと思う。貸金業法については、「資金需要者等利益保護と国民経済の適切な運営」を図る多重債務者を出さないための法改正と謳っている。利用者の利益保護という観点からいえば、規制される金利もまだ高すぎる。利息制限法金利の引下げも話題となっている。いずれ社会的な議論となろう。

また、多重債務問題への対応はマニュアルに従って処理できるものではない。陥った原因・債務金額・件数・利用年数・所得・保有資産等により、解決の方法が異なる。これらの情報を的確に把握することが、根本的な問題解決にとって大変重要になる。一般的に多重債務者の多くが、取立ての恐怖(マスコミのヤミ金報道等)から、精神的に追い詰められており冷静さを欠く。このような状況下にあって、救いを求めてくる人たちに対し、相談を正面から受け止め、問題解決をしていくことが求められる。相談対応に消極的であってはならない。