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金融機関による具体的な取組事例

これまでFPによるクレジットカウンセリングを通じて金融機関が多重債務問題(さらには貧困の問題)に取り組む意義を強調してきた。実際、多重債務問題に熱心に取り組む金融機関も存在する。古くから取り組んでいる例として有名なのは労働金庫業界である。労金業界以外に目を転じると、具体的に活動が知られているのは、長崎県民信用組合(本店・長崎県佐世保市)と伊達信用金庫(本店・北海道伊達市)である。以下、各種文献やホームページ、ディスクロージャー誌を参考にその概要・一端を説明しよう。

①長崎県民信用組合
10年以上前の話になるが、中村、高津といった書籍が相次いで出版されるなど、長崎県民信組が取り組む「生活者金融」は大きな反響を呼んだ。1981年、経営不振に陥った近隣信組を救済合併したのを機に長崎県民信組の経営が圧迫されて以来、不動産担保融資、大口法人融資から撤退する一方、他の金融機関が取り組まない生活者金融の分野に特化する大改革を果敢に実行したのである。1994年には金融機関としては初めて個人情報センターのCCB(セントラル・コミュニケーション・ビューロー)に加入するなど、多重債務者向けの活動に本腰を入れて取り組む基盤を整備していった。

特筆されるのは、1990年代末期になって本格化した「KFP(けんみんFP)」による活動。「KFP相談」と呼ばれる生活再建事業は、FPによるクレジットカウンセリングを先駆的に体現したものといえる。同信組のホームページをみると、「『KFP』について」「らいふぷらんセンター」「生活再建への手引き」といった項目が並べられ、多重債務発生のメカニズムや具体的な相談事例、債務整理について説明が加えられている。FP業務を推進するKFP推進室が「お金の病院」と称しているのも印象深い。ディスクロージャー誌の表紙には「KFPけんみん」の文字が長崎県民信用組合のそれよりも大きく記されており、文字どおりKFPの活動が同信組の代名詞になっている様子がうかがえる。

②伊達信用金庫
地元経済の停滞に伴い、地域内で多重債務問題が深刻化するケースが全国各地で後を絶たない。前述の長崎県民信組もそうだが、伊達信金の場合もテリトリーとする北海道南西部で自己破産申立件数が増加していた。そこで、伊達信金では1999年の創立50周年を機に、社会貢献事業の一環として多重債務問題への取組みを決意したのである。相談業務を行う専担拠点は「だてしん相談プラザ」。各営業店からの紹介等により予約制で相談を受け付け、多重債務者の問題解決と生活再建(再生・自立)を図る方針を掲げている。債務整理では弁護士との連携により最善策を提案していく一方、任意整理に該当する債務者には負債整理融資の「ロングサポートローン」で対応する。

2008年度の多重債務者からの相談件数は65件(任意整理21件、自己破産12件、個人再生5件ほか)、ローンによる任意一括払いは3件・ 1,083万円。伊達信金では、地元弁護士・司法書士との連携を通じた支援サポート体制の充実を今後の課題とする一方、貸金業法改正に伴い自己破産・ヤミ金融の利用が増加しており、ローンによる救済にはリスクがある以上、今後は法的整理による救済が増えると展望している。実際には、労金業界、長崎県民信組や伊達信金以外にも多重債務問題に取り組む金融機関が存在する可能性はあるが、費用対効果、リスク対効果といった面を勘案すると持続可能な事業として中長期的に成立させるのは至難の業である。

それだけに、多重債務問題への取組みについては詳しいディスクロージャーが行われにくいといった側面もあり、金融界での取組状況を正確かつ詳細に把握することは困難極まりない。なお、いわゆる「借換えローン」や「おまとめローン」を取り扱う金融機関も存在するが、懇切丁寧で親身のクレジットカウンセリングが行われるとは限らないことに加え、返済負担の大きさや過払い金の取扱いをめぐる問題などが指摘されており、実際にトラブル発生も聞かれる情勢にある。こうした商品の取扱いだけをもってクレジットカウンセリングの取組事例に含めるのは疑問なしとはしないので、ここではあえて除外していることを付しておく。